INTERVIEW 01吉成 仁志 さん(アーティスト)前編「これから」につながる、私たちなりの環境アクション
シルクスクリーンを用いてワークショップをおこなっているアーティスト集団“LIVE HANGA SHOP”のメンバーの1人、吉成 仁志(よしなり まさゆき)さん。吉成さんとは、2015年春のアースデイ※東京を皮切りに、様々な場所でリユースTシャツにデザインを手刷りプリントするワークショップを実施しています。インターネットでの問い合わせから始まった出会い、ワークショップでの感動、これから一緒にやりたいこと…。
いろんなことを語り合いました。
「Tシャツを裏返して着る!?」斬新さにびっくり
藤田:吉成さんとの出会いは、フレンドリーデーインターナショナルのウェブサイトへの問い合わせのメールがきっかけだったんですよね。LIVE HANGA SHOPのメンバーのお一人からのメールには、とても丁寧な文章で、活動内容と一緒にやってみたいことが書かれていました。でも、当時私は生後3か月の双子のお世話が中心の生活で、外に出るのも大変でした。それで状況を話したら「ついでがあるから寄ります!」と千葉県の九十九里浜沿岸にあるわたしの家まで、吉成さんも一緒にプロジェクトメンバーの皆さんで来てくださいましたよね。
吉成: 僕は仲間3人で、2012年からシルクスクリーンを用いて現場刷りを行う「Live Screenprinting」を始めました。一般的なシルクスクリーンは枠を固定するのですが、そこをあえて固定しないでフリーハンドでやる、という方法を用いています。数年前、ワークショップで使うTシャツとして、何か特別な意味が込められたものを探していたときに、メンバーの1人が「リユース、Tシャツ」と検索して、たまたま藤田さんの活動を見つけたんです。「捨てられるはずだったTシャツをひっくり返して着るなんて、これは斬新だ!」とみんな驚きました。一般的にTシャツはプリントされているほうを着るじゃないですか。それを裏返しにするなんて。「方法はまだいっぱいあるんだな」と考えさせられました。
藤田:実は、私もちょうどその頃、シルクスクリーンを求めていたんです。エコ商品って、私が関わり始めた2003年当時は「環境に良いから」買うものだったんですよ。そうじゃなくて、「かわいいから、かっこいいから」買うものにしたくて、リユースTシャツの販売を始めました。でも続けていく中で、もどかしく思う部分もあって。
吉成:もどかしい?
藤田:リユースTシャツは、イベントごとにデザインを変えているから、毎年買って、コレクションにしてくださるリピーターさんが多いんです。とても嬉しいことだけど「誰かが用意したエコ商品を買う」という受け身スタイルでは、いつまでも環境問題は改善されないと思うんです。このままだと家にあるエコ商品は増えているものの、環境に優しい暮らしに根こそぎガラッと変わるイメージはない。
そこで、「次の時代はただ買うだけじゃなくて、もう1アクション加えないとだめだよ」「自ら動き出さないといけないよ」という想いを伝えるために、ただの販売型からアクション型に移行したかったんです。そうして思いついたアイデアの1つがシルクスクリーンでした。ただ「やってみたいけど、1人ではやり方も分からないし、どうしようかな…」と考えていました。だからメールをいただいた時はとても嬉しくて。お会いしたらすぐに共感が生まれましたよね。その次にはシルクスクリーン一式持参でまた来てくれて。
吉成:僕たちがやっているシルクスクリーンは、対面でお客さんと一緒に作り上げていくので、藤田さんにも実際に見て、体験してもらったほうが「こういうことか」と分かると思ったんです。
藤田:そうそう、当時幼稚園児だった息子も参加させて、どういう風にできるのかを見ましたよね。シルクスクリーンは小さい子でもできるし、出来上がりの時の感動がすごいことを体感できました。刷り上がったものを見るとき、みんなの顔がパッと明るくなる。この感動の大きさは、今もイベントの度に全員の参加者に対して感じています。
驚きであふれるワークショップ
吉成:一緒に実施した最初のワークショップは2015年春のアースデイ※のイベントでした。その後、環境系やアート系のイベントで計5、6回実施してきました。
藤田:環境系イベントではある程度、環境への関心が高い人たちが来る場合が多いけれど、アート系イベントでは、デザインや手作りできることを楽しみに来場される方が多く、環境意識は様々です。
吉成:お客さんには、エコ意識より、シルクスクリーンが目の前でできる面白さと「え!使われているTシャツって裏返しなの!?」という驚きを持ってもらうようにしています。裏返しにするという新しい着方、襟を切るなどの加工の楽しさも感じてほしいと思っています。僕自身、リユースTシャツに出会ってから環境意識が芽生え始めました。リユースTシャツのストーリーを一人でも多くの参加者に伝え、その人自身に小さな変化が起こればいいかな、と思っています。
藤田:吉成さんは、ワークショップでのお客様への説明が本当に丁寧ですよね。リユースTシャツについて、普段私は1から10までお客さんに話すのだけれど、一人当たりだいたい10分ぐらい必要になる。それをちゃんとできる人は、イベントなどを手伝ってくれる人の中でも限られています。そんな私の目から見ても、吉成さんの説明は本当に丁寧!シルクスクリーンの刷り方だけでなく、リユースTシャツの背景まで、自分のプロジェクトのようにちゃんと話してくださいますよね。本来20人対応できるところを10人程度しかできないかもしれないけれど、しっかり伝わっていると、いつも強く感じます。
吉成:環境意識の高い人に伝える、というよりも、自分のまわりやまだ「環境問題」という課題に接していない人たちに、フラットに、かしこまらずに、共感と共有を大切にしながら、環境への想いを伝えたいと思っています。ワークショップに参加してくれる方の多くは、環境意識がこれといって高いわけじゃないんですよ。そこに「環境、環境」と言うと重苦しいワークショップになってしまいます。そうではなく、今までの既成概念を取っ払った「シルクスクリーンを用いたワークショップ」を体験することで、「使用してるTシャツが裏返し?なぜ?」と考えてほしい。参加してくださった方がそれぞれ、この疑問を持ち帰り、日々着用する中で想いを感じとってほしいんです。
藤田:私も同感です。
ところで吉成さんは、シルクスクリーンのデザインに日本のモチーフを用いていますが、この柄には何か特別な想いがこめられているんですか?
吉成:311以降、絵描きの人たちが個人としてどういう意識レベルで生活を歩むか、しっかり考えなければいけない、という話題がよく出ており、自分も表現者として何が伝えられるかを常に考えています。 特に311以降は日本人としてのルーツをよく考えるようになりました。さらに今年3月にNYで展示をした際に「日本人、アジア人」として見られていることを感じ、もっともっと日本についての知識を深めたいと思うようになりました。それで、日本のモチーフを描いています。
知識を深める事で、色、形に特別な意味が込められている事を知り感動します。例えばシルクスクリーンのモチーフになっているしめ縄は地域ごとに素材、形が異なり、それぞれ意味があるんです。私がモチーフにしたしめ縄は、宮崎県高千穂郷に伝わる『平和結び』です。それと今は縄文時代にも興味があります。とくに土偶。土偶も、上をむいているもの、体育座りのもの、泣いているようなものなどいろんな形があります。それを見て、作った人の気持ちを想像するんです。調べて、知識として取り入れ、想像する。それが最終的なデザインにつながっています。
撮影協力:MONKEY CAFE
- ※アースデイ
毎年4月におこなわれる、地球のことを考えて行動する日。
吉成仁志
神奈川県平塚市出身。東京工芸大学デザイン学科卒業 / 2005~08年タワーレコード販売促進部署でのポップディスプレイを制作 / 09年よりアーティスト活動を開始。 2012年より、シルクスクリーンを用いた現場刷りLive Screenprintingを始め、真心ブラザーズなどのTシャツデザイン&現場刷り、音楽フェスやモノ作り系のイベントに出店。http://www.shinauma.com/