INTERVIEWS

本プロジェクトを主宰する藤田香織が、リユースTシャツプロジェクトを共に盛り上げてくださっているクリエイターの方々をお迎えし、対談させていただいております。その会話から見えてくるリユースTシャツは、このプロジェクトを15年続けている藤田にも、とても新鮮に映ることがあります。

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INTERVIEW 03梶原 誠 さん(WAcKA代表) 前編スタートは「Tシャツリユース」への共感――ゴールは「自分たちの仕事がなくなること」

UPDATE: 2017/07/21

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WAcKA(ワッカ)代表の梶原誠(かじはら まこと)さんは、Tシャツやカットソーの廃材を再利用し作成した、Tシャツヤーン(手芸糸)の販売をしています。
私たちはSNSをきっかけに、共通の友人を介して出会い意気投合。今回の対談では、
「Tシャツをリユースする方法は違っても、目指すゴールは同じ」――この想いを共感し合えることが、大きな力になることを再確認しました。

「リユースさせたい思い」の共感が、わたしたちをつなげた

藤田:梶原さんとの出会いのきっかけは、私の「リユースTシャツプロジェクト」を応援してくれていた中学の時の友だちでしたね。
その友だちから、「会社の先輩に、独立してTシャツのリユース事業を始めた方がいるんだけど、香織ちゃん会ってみない?」ってメールが来て、「ぜひぜひ!」って返事をしたら、梶原さんが直接メールをくださって、すぐお会いしましたね。

梶原:実は、フェイスブックで「リユースTシャツプロジェクト」のホームページをリニューアルしたというシェア投稿を見て、「これは共感できる!」と思い、「ちょっと間を取り持ってくれ」とお願いしたんですよ。
その時、私が2017年1月に独立したすぐのタイミングで、不安な気持ちの中「同じ思いを持つ人がいる」と、本当にうれしかったです。

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藤田:その時、私は子育て真っ最中でしたし、当時も今も郊外に住んでいます。そのため「もっとイベントをやりたい」と思ってもできず、企業からの注文のニーズも応えられず、1人でプロジェクトを推進していくことに限界を感じていました。また、「プロジェクトを共にやっていく人が必要だ。パートナーシップを広げたい……でも、仕事として依頼するのではなく、思いに共感し合えた人と一緒やっていきたい」と悩んでもいました。
ですから、初めてお会いする時にはワクワクしていました。話し出したら「そうそう!」って意気投合して、2時間ぐらいしゃべり続けましたね(笑)。
梶原さんが「WAcKA」を立ち上げられたきっかけを、改めて教えていただけますか?

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梶原:きっかけは、アパレルメーカーの社員だった時に、海外勤務でバングラデシュに行ったことです。
バングラデシュはアジアの最貧国と言われていて、輸出の80%が繊維産業です。日本や欧米諸国は、人件費の安さを求めてバングラデシュに発注しています。
でも、工場の設備はひどいもので、年中蒸し暑い気候なのにエアコンも非常口もなく、すし詰めの状態。換気は不十分で肺の病気になる人や、排水による汚染もある過酷な環境でした。
しかも、賃金が支払われていない工場があったことは、衝撃的でした――発注元の国も消費者もそういう実態を知らないんです。僕は「これを日本で多くの人に伝える義務がある」と思いました。

藤田:強い衝撃を受けたんですね。現地に行かれてすぐのことですか?

梶原:そうです。バングラデシュには、駐在と出張を合わせて4年間ほど住んでいましたが、毎日矛盾を感じながらも、組織の一員として働いていました。
ですがそのうち、現地の人の立場で考えることが多くなってきたんです。
「日本では、千円で売られているTシャツを買う人の安全は守られているのに、それを作る人は劣悪な環境で働き、しかも給料が支払われていないのはおかしい。何とかこの人たちの状況を改善したい」と思っていました。

そんな時、2016年にバングラデシュのダッカでテロ事件が起きたんです。
僕は、その当日朝に帰国していたのですが、襲撃されたレストランは、徒歩10分くらいの所でよく知っていて、とても他人事とは思えませんでした。亡くなった方々は、「国を良くしよう!」と活動している人が多かった。
その時自分を振り返り、会社の利益のために働いていたことに、胸に“ドシッ”とくるものがありました。
そして、「少しでも何か社会に貢献できるようなことをしよう」と心に決めたんです。

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藤田:テロ事件が決定的な出来事だったんですね。

梶原:その後、日本での勤務に戻り、現地で作られたTシャツの返品を会社で見たんです。すると「どこに問題があるんだろう?」と思うような、きれいなものばかり。現地であんなに苦労して作られ、僕にとっても愛着のあるものたちが、着られることなく処分されている――とても心が痛みました。
「何とかこの子(Tシャツ)たちに再び魂を入れ、生き返らせる方法がないか!?」と考え始めました。

藤田:そうなんですね……。その想いを事業にされるまでは、どういう経緯があったのですか?

梶原:2015年、台風18号で鬼怒川決壊し茨城県常総市のTシャツ工場が水害を受けました。その時ボランティアで、水没したTシャツを一枚一枚洗い直し、販売する活動に参加していたのが、会社の同期の佐々木でした。
私は、彼女から「一般的なサイズは買ってもらえるけれど、大きい物や小さい物は売れ残ってしまうという」ことを聞きました。何か方法はないものかと考えた時知ったのが、「繊維製品を糸に変える」というヨーロッパのビジネスモデルでした。それがきっかけで、今の会社を立ち上げることにしたのです。

僕一人では起業しなかったかもしれません。信頼できる佐々木がいたからできたのだと思います。社名の「WAcKA」は、僕と彼女の想いがつながったように、「共感できる人と輪を広げていこう」という意味が込められています。

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Tシャツから生まれる共感の輪

藤田:Tシャツというアイテムで、私たちもつながったんですね。
私が23歳で活動を始めた頃は、環境活動に関わる若い人といえば、生成りの服しか着ていませんでした。オーガニックで良い物だというのは分かるけれど、高価だし、トレンドを追っているようなものには見えなかった。私は、活動に共感があっても“あこがれ感”がないと、絶対に広がらないと思うんです。
Tシャツだったらデザインやカラーを変えられるので、環境活動に色があふれますし、着ることでデザインに込めたメッセージを、発信できるのがいいですよね。

それに、Tシャツは着ない人がいないくらい一般的な、馴染みのあるアイテムです。ステキなデザイナーさんに協力いただきながら、アパレルと同じレベルのプリントができれば、もっと広がっていく可能性のあるものだと思います。

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梶原:僕も子どもの頃からTシャツが好きで、仕事でもずっと携わっているので、一番身近なアイテムです。

藤田:ところで、梶原さんが製造販売されている手芸糸「iTTo」は、すべてTシャツの生地からできているんですよね。

梶原:そうです。Tシャツの生地の丸まる特性を生かし、糸にすることを思いつきました。常総市の災害で水没したTシャツを使ったものもありますよ。

糸の染色は自分たちが手作業で行っていますが、糸を巻く作業は近くの障がい者施設に依頼しています。日本では施設で働く方々の賃金が安すぎるので、僕たちは「身近なフェアトレード」ということで、正当な価格で仕入れて販売することを心がけています。

藤田:最近、「Tシャツヤーン」はメディアにも取り上げられたり、手芸品店のコーナーでも一番いい場所に置いてあったりしますね。ブームが来ている感じですか?

梶原:確かに後押しされていますね。Tシャツヤーンの中でも「iTTo」は、唯一の国産です。編みやすくて良い作品に仕上がるように、加工の工夫をしています。初心者から熟練の方まで幅広い層にご好評いただいています。

そして、僕たちは、「iTTo」をきっかけに、まずはTシャツの廃棄問題があるということに気付いて、意識してもらいたいと思っています。でも、難しく考えずに、まずは編み物を楽しんで、気がついたら「ゴミの削減につながっていたね」というのが理想的です。
そのために、参加型の「iTTo」を使った編み物のワークショップを開催しています。

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藤田:参加者はどのような方が多いですか?

梶原:小学生からお年寄りまで幅広いですね。糸が太くて編みやすくすぐに完成し、チャレンジしやすいと思います。

藤田:私も梶原さんのワークショップで初めて編み物したんですが、楽しかったです。9歳の息子も、ブレスレットを作りました。梶原さんが“楽しむ”ことを大事にされているのはとても共感します。
「エコだから買う」のではなく、「このTシャツかっこいいね、着たい!」って思って買ってもらいたい。そして「これ裏返しになっているけど、どういうこと?」ってその理由に興味を持ち、さらに共感が深まって着てもらう――これが理想ですね。

リユースTシャツのお客さんの中には、わざとタグを切らない方もいます。あえてタグを出して着て、会話のきっかけにすることを楽しんでくれているんです。「そこまで共感してくれてありがたい!」ってすごくうれしくなりますね。

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梶原:共感してもらえるとうれしいですね。僕も藤田さんと出会ったことで、すごくパワーをもらっています。

藤田:そう、根っこが同じで、途中の方法は違うけど、また最後一緒になるみたいなね。活動を続けながらもいろんな迷いや悩みがあるんですけど、梶原さんとお会いして「あ、私まだやっていていいんだ」ってすごく背中を押された感じがしています。

梶原:僕も他の人に自分の思いを熱く語ったりすると、ポカーンとされることが多いんです。
でも藤田さんには「アップサイクル(*)」っていう言葉一つとっても、それが説明なしで通じ合えた。それがうれしかったですね。お会いする前からワクワクして、お話ししてさらにワクワクしました。
(*アップサイクル=元の製品よりも価値の高いモノにさせるリサイクル方法)

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藤田:ありがたいです。私も梶原さんから大きいパワーをもらっています。
お客さんやボランティアとしてではなく、事業をしているという同じ立場で、悩みも喜びも共有できる仲間ができたことが心強いです。
共感の力ってこんなにすごいんだなというのを改めて感じています。

後編に続く…

_DSC1222梶原 誠
大阪府東大阪市出身。関西外国語大学外国語学部英米語学科卒業/1998~2004年繊維専門商社にて営業として勤務/2004~2016年Tシャツメーカーにて営業、生産業務を担当。生産部署在籍中、ベトナム、バングラデッシュに駐在。2017年より前職同僚と2名でWAcKAを立ち上げ、廃棄衣料品のアップサイクル活動を行っている。http://www.wacka.jp